暗数となりゆく性被害者たち 通報に大きな壁

投稿者: | 2017年3月18日

 人間の尊厳を傷つける性犯罪。調査書『子どもと家族の心と健康』(1999年)によると、18歳未満の女子の39・4パーセント、男子の10パーセントが性犯罪の被害者だという。しかし被害申告率はたったの18・5パーセント。多くの性犯罪が「暗数」のままだ。

 通信制高校に通うまいさん(仮名・17歳)も警察に被害を届けられなかった1人だ。昨年11月、まいさんは父親から性的虐待を受けた。優しかったはずの父とは恋愛相談をするほどの仲。それだけにショックと恐怖は大きく「まるで悪夢のようだった」と話す。 翌朝、思い余って母親に告白した。「離婚はできない、通報もしないでくれ」と泣いて頼まれ、目の前が真っ暗になったという。母親は身寄りがなく病気持ちで、金銭的負担はかけられなかった。せっかく決まっていた進学が危うくなるのも避けたい。そして何より、周囲に事情を知られることが耐え難かった。「たった一度きりのことだから、私が我慢すればいいだけの話」。しょうがないことだと自分に言い聞かせ、納得しようとした。まいさんは今、事情を知らない親戚の家で暮らしている。ベッドに入るたび、肌を這う手の感触を思い出す。被害から2か月経った今もなお、眠れぬ日々が続く。

 これは決して特殊なケースではない。金銭的、社会的、そして精神的な壁が通報を阻む。性犯罪厳罰化に関する法整備が進んでいるが、被害者への支援体制の確立も急務だ。 通報を諦めたとしても、心の深い傷は確かに存在する。「暗数」として埋もれてしまった被害者たちは、救われることなく生きていく他ないのだろうか。

 

進む法整備 課題も

 昨年の9月、性犯罪厳罰化を主とした刑法改正案が法制審議会より答申された。性犯罪の大規模な見直し、検討は約100年ぶり。今年の国会で提出される見通しだ。

 主に盛り込まれた内容は①強姦罪、強制わいせつ罪の法定刑の下限引き上げ②強姦罪、強制わいせつ罪を被害者の告訴なく起訴できる非親告罪化③性被害者の対象を両性に拡大④親から18歳未満の子への性的虐待を処罰する規定の新設の以上4点。①と④は加害者への厳罰化、②と③は被害の潜在化を防ぐための法規定だ。今回の改正案答申は「性犯罪に甘い」日本において、大きな一歩だろう。しかし、まだまだ課題はある。犯罪白書によると性加害者は「面識のある人」「親類」が五割以上を占めるという。加害者との関係性から、いくら取り締まりが強化されるとはいえ被害者が周りに相談できるか疑問だ。

 刑罰の見直しだけでなく、被害者の保護や支援が両立してこそ、性被害の潜在化は防げる。改正案提出を機に、性被害支援の体制づくりを望みたい。

【森元 茜】