変わりゆく英語 ジェンダーフリーの時代を映す

投稿者: | 2017年3月18日

 英語の人称代名詞に変化が訪れている。近年、三人称複数形theyを新たに単数形として用いる用法が定着しつつある。元来の三人称単数形he、sheが対象の性別を明記するため、性の多様化の潮流から逸れていた。英語の人称代名詞に大きな変化が起こったのは、二人称単数形が複数形に飲み込まれた18世紀以来。

 theyに新たな用法が加わった背景には、差別に敏感な現代社会がある。言語においても差別的用語を避ける、政治的正しさを求める運動の一環だ。人間一般をheと男性系のみが受けるのはおかしいと、男女平等の観点からhe or sheと言い換える一派が現れた。が、heとsheのどちらを先にするか、新たな論争が生まれたほか、文章が長くなる問題も。これらを同時に解決するため、theyで置き換える話者が増えた。

 時代をさかのぼると、シェイクスピア英語にみられるthou(汝)といった二人称単数が、複数形のyouに吸収されたのは、ちょうどフランス語を母語とするノルマン人貴族階級が英語社会に溶け込み始めた時期に重なる。女王などの権力を持つ一人を表現する際、あえて単数ではなく複数を用いることで距離を取る、フランス語の敬語用法が英語に流入した。この用法では単複を区別しないが、youの単数的用法が定着した近頃は区別の必要性を感じる話者が増えている。you guysやyou allという新たに生まれた「複数形」に話者の意識の変化が現れている。

 この変遷を考えると、theyも単数使用が恒常化するとyouと同様に近々新しい「複数形」が生み出されるのとの予想があった。しかし実際に出現したのはtheyの単数形だった。昨年12月16日、英語圏では複数と単数用法を区別するため、they、their、theirsに対応する「単数形」としてze、zir、zirsが浸透しつつあるとハフィントンポストが報じた。話者個人の考えや、社会全体の考えに合わせて変化するのが言語の姿なら、言語は生き物、または生ものだ。賞味期限が過ぎていないか、確認しつつ味わってほしい。              

【四方翔子】