〔書評〕伊藤邦武『プラグマティズム入門』 ~超大国を築いた哲学 現代国際問題 解決の糸口~

投稿者: | 2017年3月18日

 昨年11月、米大統領選においてクリントン氏がトランプ氏に敗れたことは記憶に新しい。オバマ氏にとっては、クリントン氏は自身の思想の中核を成すプラグマティズムの思想的後継者であった。アメリカでは多くの政治家や起業家たちがこの思想を持つというが、トランプ氏は全く異なる思想を前面に押し出す。この選挙戦を経て思想面で大きな転換期を迎えたアメリカ。その根底を流れるこの思想に、今改めて注目が集まっている。

 本書では、プラグマティズムの源流から今世紀に至るまでの様々な哲学者の考え方を紹介し、この思想の流れの要点を説明する。一般に「プラグマティズム」という言葉自体は、「実用主義」のように、結果がよければ何でもよいという発想や行動を指すこともある。しかし、哲学思想におけるものは異なる。

 筆者は、この思想の課題とは、われわれの認識の正しさや真理性の特徴を明らかにすることだと言う。しかし、そのためにこの思想が行うのは、認識の真理性の絶対的な根拠を求めることや、その可能性の理由を定義することではない。プラグマティズムは、真理を求める場面での、人間が採用すべき対話形式や、問答の枠組みのあり方を問うのである。この点は、唯一の真理を求めるそれまでの西洋の哲学とは一線を画する。筆者は、この思想の特徴を、統合性や開放性といった開かれた柔軟性に見るが、それは、真理や価値の最終決定よりも、それらの追求スタイルの反省を重視するゆえである。

 プラグマティズムへの世界的な関心は一層高まるばかりだ。多様な価値観や考え方の共存が求められる現代の世界において、これまでの伝統的な哲学とは異なったアプローチを試みるこの思想は、今日の状況に非常に説得力のある提言を与えうる。今後、アメリカはどのような変化をとげ、どの方向に舵をとるのか。本書は思想的側面において、その理解の一助となりうる航海図を手に入れるための格好の入門書だ。   

【本田恵梨】

○書籍情報

『プラグマティズム入門』

著者:伊藤邦武

出版社:筑摩書房

出版日:2016年1月10日