〔書評〕不振からの脱出、人を信じる勇気 近未来SFにみる真理

投稿者: | 2016年10月9日

人生において、誰もが挫折や悲しみを味わい、ひどく落ち込むことがあるだろう。そのような気分に陥った時、あなたはこの作品に勇気づけられるかもしれない。

舞台は1970年代から2000年代のアメリカで、原作が出版された1956年当時から見れば近未来である。ロボットの発展や人間の冷凍睡眠が適用される時代を背景としたいわばSF小説なのだが、語られるものは夢のような話ばかりではなく、むしろ人間味に溢れている。例えば、主人公デイヴィスが受ける裏切りである。長い間親しくしていた相手からひどい仕打ちを受けたとき、孤独を感じ、もう誰も信じたくないと殻に閉じこもったことはないだろうか。しかし、塞ぎ込み一人で行動し続けても上手くいかないことは多々ある。たとえどん底を味わっても、他人を信じる勇気を持てば、きっと誰かが手を差し伸べてくれるということが、主人公の絶え間ないアクションから伝わってくる。

そして、そんな暗い境地から這い出そうとするデイヴィスの姿は、本書に登場する飼い猫ピートに投影されているように思える。常に味方でいてくれ、主人公と共に奮闘するピートは人間のごとく信頼すべき存在のように見えると同時に、飼い主と同様、何かを必死に追求しているかのように描かれているのが興味深い。

本書『夏への扉』を読めば「夏」が何を意味するのか、ぼんやり浮かび上がってくるだろう。探し続け失敗しても繰り返せばいい、希望を捨てず前に進めば幸せへの扉は開くと感じるはずだ。【新谷真由】

○書籍情報

『夏への扉』

著者:ロバート・A・ハイライン

発行所:早川書房

出版年:2010年1月